side 翠姫
いつものように授業をきっちりと終え、生徒会室へと向かう。それが生徒会長である俺の仕事だ。
生徒会室に入れば、まだ誰も来ていなかった。
「あれ? 阿久津たちの方が先に来てると思ったんだけどな?」
部屋の中を見てポツリと呟き、自分の座るべき席に向かい、荷物を置いて椅子に座った。数人の友人に捕まり、長話をしていたのだ。だから阿久津たちの方が先に来ていると思っていた。
「まぁ、いい」
先に来ていようが来ていまいが、何ら問題もない。自分は自分の仕事をするだけなのだから。机の上の書類の山を見て小さく息を吐く。
昨日、帰宅するときには全部完成させて片付けていったのにも関わらず、新しい書類が山となって置かれていた。
それらにざっと目を通し、側にあるパソコンの電源を入れた。大半が手書きではあるが、時々パソコンに入力しないといけないものがあるのだ。
今回の書類に幾つかそれが混ざっていた。パソコンができないわけではないので気にはしないが……。ただ、枚数が多いと目が疲れてくる。それだけだ。
誰もいないので部屋の中がシンとしていて、集中するにはもってこいだ。窓の外では部活動が始まったのか、運動部の声が響きだした。
あまりにも集中していたせいか、他の役員たちが来たことにすら気が付いていなかった。
「会長、少し休憩してください」
そんな阿久津の言葉と、そっと邪魔にならないように置かれたコーヒーカップに驚き、顔を上げれば少し困った顔をした阿久津と目が合った。
「わりぃ、来てたのか。そんなに集中してたのか?」
切りのいいところまで入力してから椅子の背に深々と凭れれば、
「はい、かれこれ2時間ほど。委員長もいらしてたのですが、あまりにも集中していらしたので、声をかけずに書類を置いて戻られました」
阿久津の言葉を聞き、自分がどれだけ集中していたのかを知らされる。
「あー、わりぃ。後であいつにも謝っとく。お前たちはちゃんと休憩したのか?」
自分が集中しすぎていたということは、周りの様子を気にしていなかったことになる。阿久津のことだからちゃんと気にかけてくれているとは思うのだが、つい聞いてしまう。
「大丈夫ですよ。私たちも今から休憩に入るところです」
その言葉に小さく笑う。俺を休憩させるついでに自分たちも休憩に入ることにしたんだと……。
他の役員たちが雑談をしながら休憩に入ったのを確認してから、俺は阿久津の淹れてくれたコーヒーを飲みながら窓の外へと視線を向けた。
休憩を終わらせて、作業の続きに取り掛かり、時間を確認して溜め息をつく。
「おい、もう帰るぞ」
本当はもう少し作業していたいが、余り遅くまでやっていると鬼の風紀委員がやってくるからな。最終確認をしながら声をかければ、
「わかりました。残りは明日でも大丈夫なので私たちもこれで終わりにします」
阿久津たちも切りのいいところまで済ませ、帰る準備をし始めた。
「では会長、先に帰りますね」
片付けを済ませた阿久津たちが声をかけてきたので、
「あぁ、お疲れさま。戸締りをしたら俺も帰るから心配するなよ」
そうとだけ返事をした。じゃないと安心しないからな。阿久津たちは頭を下げて出て行った。